売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)とは、どのようなローンサービスのことを指すのでしょうか?売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のメリットデメリット、ビジネスローンとの違いをわかりやすく解説します。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)とは?
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)とは
を言います。
売掛債権(売上債権)とは
を言います。
日本の商慣習では「BtoB」の取引などでは、「信用取引」がメインとなっています。
- 納入企業 ⇔ 支払企業 :契約
- 納入企業 → 支払企業 :商品やサービスを提供
- 納入企業 → 支払企業 :請求書を発行
- 支払企業 → 納入企業 :支払
「BtoB」取引では、「商品の納品」「サービス・役務の提供」をしても、すぐに代金が支払われるわけではなく、「末締めの翌月末支払い」「末締めの翌々月末支払い」という支払いサイトで後払いされることが一般的なのです。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のことをABL(アセット・ベースト・レンディング)「流動資産担保融資」と呼ぶこともあります。
ABLとは
を言います。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)よりも、ABL(流動資産担保融資)の方が範囲は広く、在庫なども担保になります。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)が登場したのは「債権譲渡登記」制度が誕生したから
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)が一般的になったのは「債権譲渡登記」という制度が誕生したからです。
法務省のサイトでは下記のように定義されています。
「債権譲渡登記」制度とは
債権譲渡登記制度は、法人がする金銭債権の譲渡や金銭債権を目的とする質権の設定について、簡便に債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えるための制度です。
もっと噛み砕いて言えば
「株式会社A社が保有するC社の売掛債権に銀行Bが質権を設定したよ。」
という情報を、法務省が権利を公示してくれる制度なのです。
質権とは
十分ではないのです。
売掛債権の登記制度がなければ
株式会社A社が保有するC社の売掛債権1,000万円
があった場合に
- 株式会社A社が銀行Bにも、C社の売掛債権を担保に1,000万円を借入
- 株式会社A社が銀行Dにも、C社の売掛債権を担保に1,000万円を借入
- 株式会社A社が銀行Eにも、C社の売掛債権を担保に1,000万円を借入
・・・
と、複数の銀行や金融機関を騙して資金を調達することができてしまいます。
この場合、実際の返済が滞っても、担保は1,000万円分しかありませんので、銀行B、D、Eのうち2社が泣きを見ることになってしまいます。
これでは、銀行や金融機関も、こわくて売掛債権を担保にした融資ができないので、公的に権利関係を明示する「債権譲渡登記」制度というのは、売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)にとって、非常に重要な制度なのです。
この機能のことを「債務者以外 の第三者に自己の権利を主張することができる(第三者に対する対抗要件を備える)」と表現するのです。
これは不動産担保ローンと同じような仕組みで
- 不動産担保ローン → 不動産登記制度 → 抵当権の設定が可能
- 売掛債権担保ローン → 債権譲渡登記制度 → 質権の設定が可能
という仕組みになっています。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)の基本的な特徴
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)は、どんな売掛債権が対象になるの?
- 中小零細企業への債権
- 法人格((株)(有))のない屋号先への債権
- 手形・小切手集金の債権
- 10万円以上の小口債権
・・・
基本的には、すべての債権を担保にすることができます。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)は、いくら借りられるの?
売掛債権の金額の範囲内でしか、借りられない
当然ですが、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」は
を言います。
となります。
売掛債権の掛け目は90%が相場ですので
売掛債権額3000万円の場合は、2700万円ぐらいまでは借りられる可能性が高いと計算できるのです。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のメリット
売掛先からの承諾は不要
譲渡登記制度が登場する前までは、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」を利用する場合は、売掛先(クライアント)の承諾が必要でした。売掛金を支払う側の承認があるから、売掛債権を担保にできていたのです。
しかし、「債権譲渡登記」制度ができてからは、売掛先(クライアント)の承認は不要になりました。売掛先(クライアント)に通知することなく、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」が利用できるのです。
売掛先(クライアント)に売掛債権を担保にしたことを通知するというのは、中小企業にとっては、今後の営業活動に支障をきたす可能性があるリスキーな仕組みでした。これがなくなったことで、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」は、かなり利用しやすくなったのです。
金利が低金利になる
無担保ローンのビジネスローンと比較すると「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」は、担保がある有担保ローンですから、その分金利は低金利に設定することができます。
審査が甘い
「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」は、無担保ローンのビジネスローンとは違って
- 返済できなければ、売掛債権を売却して融資資金の回収に充てることができる
- 返済できなければ、売掛債権の売掛金を回収して、融資資金の回収に充てることができる
のです。
銀行や金融機関にとっては、リスクが低い分、無担保ローンのビジネスローンと比較すると審査が甘くなるのです。
「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」の場合は、借りる会社の審査も重要ですが、売掛金を支払う売掛先の信用力も、重要な審査要件となります。
借りる会社の信用力が低くても、売掛先の信用力が高ければ、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」の審査は通る可能性が出てきます。
決算書の内容よりも、担保の質を重視するのが「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」なのです。
前期赤字・債務超過・リスケ中でも利用できる可能性があります。
個人保証が不要
「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」には、代表者の個人保証が不要なものもあります。
一般的に銀行融資やビジネスローンの場合は、代表者個人が連帯保証人になることが求められます。このことを「個人保証」と言いますが、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」では、売掛債権という明確な保険があるので、個人保証不要という「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」も少なくありません。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のデメリット
無担保ローンよりは融資実行までに時間がかかる
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)の場合は
- 「債権譲渡登記」をしなければならない
- 売掛先の信用力を調査しなければならない
- 売掛先と納入先の取引の実態(契約書、納品書、請求書)を確認しなければならない
ため、融資実行まで数日かかるのが一般的です。
無担保ローンであるビジネスローンは「最短即日融資」が可能であることと比較すると、若干融資スピードは落ちてしまうのです。
手数料が発生するものもある
ビジネスローンの場合は、手数料は無料ですが、売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)の場合は手数料が発生するケースもあります。
債権譲渡登記などをしなければならないので、実務作業が発生する分、手数料を取らざるを得ないという考え方なのです。
手数料無料の「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」もありますが、手数料有料の「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」もあるので注意が必要です。
一定額の売上が必要
「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」には
- 年商○○万円以上の企業
という年商条件が設定されているものが少なくありません。
「ある程度の年商がなければ、売掛債権の金額も小さく、融資しても収益が少ない。」と考える金融機関が少なくないのです。
個人事業主は利用できない
「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」は、法人しか利用できないものがほとんどです。
なぜなら、売掛債権の債権譲渡登記制度は、法人しか利用できないからです。
売掛先(クライアント)の承諾を得た上であれば、個人事業主でも利用できるところはありますが、基本的には、法人のみを対象にしている「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」がほとんどです。
証書貸付が一般的。極度方式の貸付はできない
ビジネスローンの場合は、ローンカードを利用して、限度額の範囲内で余裕があれば、何度でも借入・返済ができる「極度方式」が採用されています。銀行融資では枠を決めて貸す融資のことを「当座貸越」「コミットメントライン」と呼ぶことがあります。
「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」で採用されているのは「証書貸付」が一般的です。
「はじめに借りて、後は返済するのみ」という返済方法です。
借入・返済の自由度は低いと言えます。
債権譲渡禁止特約があると利用できない
売掛先と契約するときに契約書を交わすのが一般的です。
その契約書に「債権の譲渡を禁止する」債権譲渡禁止特約が含まれていると、「売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)」は利用できません。
建設業(工事)などは、債権譲渡禁止特約が付いている場合が少なくありません。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)利用までの手順
1.融資の申し込み
- 会社概要
- 財務諸表(決算書)
- 資産の状況説明書
- 売掛金・買掛金一覧
- 成因書類(注文書・契約書・発注書・納品書・請求書など)
- 入出金の通帳
- 納税証明書
2.金融機関による審査
- 売掛先の信用力評価
- 信用情報のチェック
3.売掛債権の担保価値評価
- 取引先との契約書類の確認
- (場合によっては)外部の調査会社による調査
4.融資契約(証書貸付)
5.債権譲渡登記
6.融資実行
おすすめの売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)
スターABL(売掛債権担保融資)
利用条件
年商3億円以上の法人で継続的に業績の安定した売掛先
複数(10社以上)お持ちの企業
※建設業、不動産業、小売業のお客さまは対象外
融資形態
証書貸付
お借り入れ金額
1,000万円以上2億円以内(担保評価額による)
お借り入れ期間
原則1年間(審査により借り換え継続も可能)
お借入利率
年率5.50%~14.60%(固定金利)
手数料
お借り入れ金額の5.00%以内
諸費用
印紙代、債権譲渡登記申請費用等
エスワイシー「ビジネスローン」
利用条件
年商5,000万円以上の法人で継続的に業績の安定した売掛先
融資形態
証書貸付
お借り入れ金額
300万円以上1億円以内
お借り入れ期間
1カ月~3年間
お借入利率
年率7.50%~15.00%(固定金利)
手数料
無料
諸費用
印紙代
ジャパン・フィナンシャル・ソリューションズ「売掛債権担保融資」
融資形態
証書貸付
お借り入れ金額
100万円以上2億円以内
お借り入れ期間
1カ月~3年間
お借入利率
年率5.00%~14.90%(固定金利)
手数料
原則無料(場合により貸付金額の5%以下)
諸費用
印紙代
三鷹産業「売掛債権担保ローン」
利用条件
大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県、滋賀県の関西一円、三重県、愛知県、岡山県の法人
融資形態
証書貸付
お借り入れ金額
50万円以上1,000万円以内
お借り入れ期間
1カ月~1年間
お借入利率
年率6.00%~18.00%(固定金利)
手数料
無料
諸費用
登記費用
まとめ
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)とは
- 売掛債権を担保にしたローンサービスのこと
を言います。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のメリット
- 売掛先からの承諾は不要
- 審査が甘い
- 個人保証が不要
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のデメリット
- 無担保ローンよりは融資実行までに時間がかかる
- 手数料が発生するものもある
- 一定額の売上が必要
- 個人事業主は利用できない
- 証書貸付が一般的。極度方式の貸付はできない
- 債権譲渡禁止特約があると利用できない
というものがあります。
ビジネスローンと比較すると担保がある分「審査が甘い」というのが大きなメリットと言えます。赤字決算、税金未納、リスケ中など、ビジネスローン審査では通らないような経営状態でも、売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)の場合は審査に通る可能性があります。
一方で、融資スピードが遅い、担保が必要、手数料が発生する、一回借りたら返済するのみ・・・とマイナス面も、多くビジネスローンが借りられるのであれば、ビジネスローンの方が優れている点も多くあります。
売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)のメリットデメリットを理解した上で、法人向け無担保ローンのビジネスローンと比較して、利用すべき資金調達方法を判断すると良いでしょう。
「おすすめの売掛債権担保ローン(売掛債権担保融資)は、ありますか?」