ビジネスローン審査になかなか通らない会社の経営者にとっては「どうすればビジネスローンの審査に通る決算書が作れるのか?」悩んでいる方も多いと思います。今回はビジネスローン審査を通すための決算書作成法をお教えします。
ビジネスローンはスコアリングシステムによる自動審査
ビジネスローンは、そもそも個別で銀行の融資担当者が審査をするものではありません。
あくまでも
スコアリングシステムによって入力された申込情報、決算書情報から、自動的に「予想貸し倒れ率」が算出されて、その結果として
- 審査に通して良いのか?ダメなのか?
- いくら貸せるのか?
が瞬時にわかる仕組みとなっています。
ビジネスローン審査でチェックされる「決算書の数値と審査評価の目安」
「P/L(損益計算書)」に関連する指標
売上高経常利益率
「売上に対して経常利益の割合がどのくらいか?」を示す指標です。数値が高い方が優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:4.0%~
- 良好:3.0%~4.0%
- 普通:0.0%~3.0%
- 注意:-0.3%~0.0%
- 危険:~-0.3%
インタレスト・カバレッジ・レシオ
「支払利息に対して営業利益の割合がどのくらいか?」を示す指標です。数値が高い方が借入が少なく、利益が多いことを示すので優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:20倍~
- 良好:10倍~20倍
- 普通:2倍~10倍
- 注意:1倍~2倍
- 危険:~1倍
支払利息売上総利益率
「売上高に対して支払利息の割合がどのくらいか?」を示す指標です。数値が低い方が返済余力が大きいことをしみするので、優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:~0.0%
- 良好:0.0%~0.3%
- 普通:0.3%~0.7%
- 注意:0.7%~1.9%
- 危険:1.9%~5.1%
売上高伸び率
「前期の売上高からどのくらい当期の売上が伸びているのか?」を示す指標です。会社が成長しているかどうかを示す指標ですので、プラスの数値であれば成長していることを意味するので優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:4.0%~5.1%
- 良好:3.0%~4.0%
- 普通:0.0%~3.0%
- 注意:-3.0%~0.0%
- 危険:-8.5%~-3.0%
「B/S(賃貸対照表)」に関連する指標
流動比率
流動資産は1年以内に現金化される資産であり、流動負債は1年以内に返済義務がある負債のことです。流動比率が100%を超えている場合には、1年以内に現金化されるお金で返済が賄えることを意味するので優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:200%~
- 良好:150%~200%
- 普通:120%~150%
- 注意:100%~120%
- 危険:~100%
自己資本比率
自己資本比率は、「総資産のうち返済する必要のない自己資産がどのくらいの割合なのか?」を示す指標です。数値が40%を超えていると優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:40%~
- 良好:30%~40%
- 普通:20%~30%
- 注意:10%~20%
- 危険:~10%
固定長期適合率
固定長期適合率は、「固定資産が自己資本と返済期間の長い長期借入金などの固定負債の範囲内で賄われているかどうか?」を示す指標です。数値が低い方が優良企業として評価されます。100%を超えている場合は資金繰りが厳しい状態と判断されます。
審査評価の目安
- 優良:100%を下回っている状態
ギアリング比率
ギアリング比率は、負債比率やレバレッジ比率とも呼ばれるもので、企業の自己資本に対する他人資本の割合を示す指標です。数値が低い方が優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:100%を下回っている状態
「P/L(損益計算書)」「B/S(賃貸対照表)」に共通して関連する指標
債務償還年数
債務償還年数は「借金を何年で返せるのか?」を示す指標です。有利子負債に対して、お金が出ていかない経費である減価償却費と営業利益で返済することを想定しています。債務償還年数は小さい方が早期返済が可能ということなので、優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:3年以内
- 良好:5年以内
- 普通:10年以内
- 注意:10年超
- 危険:20年超
総資本経常利益率(ROA)
総資本経常利益率(ROA)は「持っているお金の中でどれだけの利益を上げたのか?」「お金をどれだけ有効活用できているのか?」を見る指標です。数値が高い方が優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:15.0%~
- 良好:9.0%~15.0%
- 普通:6.0%~9.0%
- 注意:2.0%~6.0%
- 危険:~2.0%
総資本回転率
総資本回転率は「資本、つまり資金をどれだけ効率的に経営に活用できたのか?」を表す指標です。総資本回転率が高い方が効率的な経営ができている優良企業として評価されます。
審査評価の目安
- 優良:1回~
- 良好:0.8回~1.0回
- 普通:0.4回~0.8回
- 注意:0.2回~0.4回
- 危険:~0.2回
ビジネスローン審査では一部の資産の評価が外される
ビジネスローンのスコアリング審査では、審査項目が経営実態を正確に反映させるように一部の資産項目を除外して計算します。
資産として評価される項目
- 現預金
- 受取手形
- 売掛金
- 有価証券
- 棚卸資産
- 固定資産
- 投資有価証券
・・・
資産として評価されない項目
- 未収入金
- 前払い費用
- 短期貸付金
- その他流動資産
- 長期貸付金
- 差し入れ保証金
- 保険積立金
- 長期前払費用
- その他投資等
- 繰延資産
・・・
例えば、外されてしまう資産には「貸付金」がありますが、金融機関からすれば、だれにどんな資金使途で貸したお金かわからないので、これを資産として評価してしまうと、想定される貸し倒れ率の計算に狂いが生じてしまいます。
そうならないようにと「資金化が確実でない資産」は排除されるのです。
ビジネスローン審査を通すための決算書作成法
審査対策その1.減価償却費を計上しない
減価償却費とは
を言います。
個人事業主の場合は、減価償却費は必ず計上しなければなりません。
しかし、法人の場合は「減価償却費を経費として計上するのか?しないのか?」を自分で決めて良いのです。
- 減価償却費を計上する → 経費が増える → 経常利益が減る
- 減価償却費を計上しない → 経費が減る → 経常利益が増える
という関係にあります。
利益が潤沢に出ている会社であれば、減価償却費を計上して利益を減らすことで節税することができます。
しかし、ビジネスローンで資金調達することを前提にすれば、減価償却費を計上することで利益が下がることは審査の評価が下がってしまうことを意味します。
- 売上高経常利益率
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
- 総資本経常利益率(ROA)
などの指標を上げるためには「減価償却費を計上しない」という選択肢があるということです。
- 債務償還年数
は、はじめから減価償却費が含まれているので、変化はありません。
審査対策その2.リース契約の会計処理は「賃借処理」にする
「所有権移転外ファイナンス・リース取引」による資産の賃借には、会計処理上「賃借処理」と「売買処理」の2つを選ぶことができます。
所有権移転外ファイナンス・リース取引とは
リース取引の会計処理は原則、「リース会計基準」に従うこととなりますが、中小企業については「中小企業会計指針」により「所有権移転外ファイナンスリース」は「賃貸借処理が可能」とされています。
- 金融商品取引法の適用を受ける会社並びにその子会社及び関連会社
- 会計監査人を設置する会社及びその子会社
を除く中小企業が「賃借処理」を行うことができます。
例
リース料金 10万円/月 × 60回 = 6,000千円
「売買処理」の場合
資産 | 負債・資本 | ||
---|---|---|---|
リース資産 | 6,000千円 | リース債務 | 6,000千円 |
というようにリース契約時に「資産」「負債」の両方にリース料全額を計上しなければなりません。
「賃借処理」の場合
「PL:損益計算書」上にリース料金:10万円/月を計上すれば良いだけなのです。
「BS:賃貸対照表」には影響がないのです。
「賃借処理」にした方が「BS:賃貸対照表」がスリムになるので
- 自己資本比率
- ギアリング比率
- 総資本経常利益率
- 総資本回転率
が改善するのです。
審査対策その3.賞与引当金を計上しない
賞与引当金とは
賞与引当金は、実際に費用が発生する前に、前もって計上するコストになるため、決算においては引当金分、先に経費が発生してしまい、利益が圧縮されてしまうのです。
賞与引当金を計上しなければ、利益が増えるため
- 売上高経常利益率
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
- 総資本経常利益率(ROA)
- 債務償還年数
が改善するのです。
審査対策その4.役員借入金を短期借入金ではなく長期借入金にする
役員借入金とは
役員借入金を短期借入金ではなく長期借入金にして処理すれば
- 流動比率
が改善することになります。
審査対策その5.役員借入金を債権放棄する
経営者が.役員借入金を債権放棄すれば、会社にとっては借金が減ったことになります。
負債が減るのですから
- 自己資本比率
- ギアリング比率
- 総資本経常利益率
- 総資本回転率
が改善することになります。
審査対策その6.営業外収益を売上に動かす
本業とは関係のない不動産所得が会社にある場合には、通常は「雑収入」として営業外収益で計上するはずです。
しかし、会社の定款に「不動産関連事業」とか「不動産・・・○○に付随する一切の事業」としていれば、本業の売上に入れても問題ありません。
営業外収益を本業の売上に回せれば営業利益が改善します。
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
が改善するのです。
審査対策その7.貸倒損失は「特別損失」に計上する
売掛金が回収できない貸し倒れ損失を計上するときに
「販売費及び一般管理費」の「貸倒損失」で計上している場合は、営業利益、経常利益に影響があります。
それが大口のもので一過性のものであれば「特別損失」に移行することで、営業利益、経常利益とも改善することができるのです。
- 売上高経常利益率
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
- 総資本経常利益率(ROA)
- 債務償還年数
- 総資本経常利益率
が改善します。
審査対策その8.預り金「長期預り金」に計上する
賃貸収入を得ている会社の場合、「保証金」を預かっているケースがあります。
「保証金」を「流動負債」の「預り金」で処理しているのであれば、「固定負債」の「長期預り金」に移行することで
- 流動比率
が改善します。
「保証金」は1年以内に返済しなければならないものとは限らないので、「長期預り金」で良いのです。
審査対策その9.前払い費用を長期から短期に移行する
前払い費用には「短期」と「長期」があります。
短期前払い費用というのは、1年以内に役務の提供を受ける予定の前払費用のことです。
短期前払費用とは
であり「流動資産」なのです。
長期から短期に移行することで、流動資産が増えるため
- 流動比率
が改善します。
まとめ
ビジネスローン審査は「スコアリングシステム」によって、自動的に決算データが分析され、予想貸し倒れ率が算出され、融資の可否、融資可能額が決定されます。
ビジネスローンのスコアリング審査で重視される決算の数値は
- 売上高経常利益率
- インタレスト・カバレッジ・レシオ
- 支払利息売上総利益率
- 売上高伸び率
- 流動比率
- 自己資本比率
- 固定長期適合率
- ギアリング比率
- 債務償還年数
- 総資本経常利益率(ROA)
- 総資本回転率
・・・
があるのです。
決算数値が改善すれば、ビジネスローン審査は通りやすくなります。
決算数値を改善させる方法としては
- 減価償却費を計上しない
- リース契約の会計処理は「賃借処理」にする
- 賞与引当金を計上しない
- 役員借入金を短期借入金ではなく長期借入金にする
- 役員借入金を債権放棄する
- 営業外収益を売上に動かす
- 貸倒損失は「特別損失」に計上する
- 預り金「長期預り金」に計上する
- 前払い費用を長期から短期に移行する
・・・
があります。
これだけではありませんので、常日頃から、決算数値を改善するためにどう行動するべきか?どう会計処理するべきか?を意識しておくと、さらにビジネスローン審査は通りやすくなります。
「ビジネスローンのスコアリング審査は何を重視して審査をしているのか?」を理解することが重要です。
それでも、ビジネスローンの審査に通らない方は、審査の甘いビジネスローンを検討すると良いでしょう。
「ビジネスローン審査では、決算書の何が重視されるの?」