特定調停とは?簡易裁判所で返済を話し合う手続と、相手方1社につき500円の申立手数料を条文と裁判所の案内で確認

特定調停の申立てから成立・不成立までの4段階を横並びのカードで示したアイキャッチ
結論から

特定調停は、裁判所が借金を減らす制度ではありません。簡易裁判所の調停委員会を間に立てて、債務者と債権者が返済方法を話し合う手続です。根拠法は「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(平成11年法律第158号、通称・特定調停法)で、民事調停法の特例という位置づけです。

申し立てられるのは特定債務者だけです。法律の定義は、金銭債務を負っていて、支払不能に陥るおそれがあるか、事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるか、または債務超過に陥るおそれのある法人です。

費用は安く済みます。東京簡易裁判所は、個人が申し立てる場合の申立手数料を相手方1人(社)につき500円分の収入印紙と案内しています。予納郵便切手も相手方1社につき500円分です。

強みは、話し合いの間に差押えなどの民事執行を止められる点です。特定調停法7条が、裁判所は申立てにより特定調停が終了するまで執行手続の停止を命じることができると定めています。

特定調停は「民事調停の特例」として作られた

特定調停法1条は、この法律の目的を「支払不能に陥るおそれのある債務者等の経済的再生に資するため、民事調停法の特例として特定調停の手続を定めることにより、このような債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を促進すること」と書いています。

つまり、もともとある民事調停の上に、返済の話し合いに向いた仕掛けを何枚か重ねた手続です。重ねられたものを並べると、この手続が何のためにあるかが見えてきます。

図1 民事調停に上乗せされている主な仕掛け

  • 執行の停止(7条) 調停が終わるまで、差押えなどの民事執行手続の停止を裁判所が命じられる
  • 専門家の関与(8条) 法律・税務・金融・企業の財務・資産の評価などの専門的知識経験を有する者を民事調停委員に指定する
  • 債権者の参加に許可が要らない(9条) 利害関係を持つ関係権利者は、調停委員会の許可なしに手続へ参加できる
  • 当事者に情報開示の責務(10条) 債権・債務の発生原因と内容、弁済による変更、担保関係の変更を明らかにしなければならない
  • 文書の提出要求と制裁(12条・24条) 調停委員会は文書や物件の提出を求められ、正当な理由なく応じないと10万円以下の過料

最後の過料は、この手続の性格をよく表しています。話し合いとはいえ、資料を出さないまま押し通すことは想定されていません。

申し立てられるのは「特定債務者」だけ

誰でも使えるわけではありません。特定調停法2条1項は「特定債務者」を次の3つのいずれかに当たる者としています。

表1 特定債務者の定義(特定調停法2条1項)
区分 条文の表現 想定される状態
1 支払不能に陥るおそれのあるもの 今は払えているが、このままでは払えなくなる
2 事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難であるもの 払おうとすると事業が回らなくなる
3 債務超過に陥るおそれのある法人 資産より負債が大きくなりそうな法人

2番目が、事業者にとっての入口です。返済そのものは不可能ではないが、払えば仕入れや給与が止まる――という状態が条文に書き込まれています。完全に行き詰まってからでなくても使えるのが特定調停の特徴です。

逆に、申立人が特定債務者であると認められないときは、調停委員会は特定調停をしないものとして事件を終了させることができます(11条)。事件が性質上特定調停をするのに適当でないと認めるときも同じです。

話し合いの間、差押えを止められる

資金繰りが苦しい局面でいちばん効くのが7条です。

特定調停に係る事件の係属する裁判所は、事件を特定調停によって解決することが相当であると認める場合において、特定調停の成立を不能にし若しくは著しく困難にするおそれがあるとき、又は特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるときは、申立てにより、特定調停が終了するまでの間、担保を立てさせて、又は立てさせないで、特定調停の目的となった権利に関する民事執行の手続の停止を命ずることができる。

注意点が3つあります。ひとつは自動では止まらないこと。条文は「申立てにより」と書いており、別に停止の申立てが要ります。ふたつめは、申立てをするにはその理由を疎明しなければならないこと(7条3項)。みっつめが例外で、給料、賃金、賞与、退職手当、退職年金およびこれらの性質を有する給与に係る債権に基づく民事執行の手続については停止できません(7条1項ただし書き)。

e-Gov法令検索で表示した特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律第7条から第12条までの画面。民事執行手続の停止、民事調停委員の指定、関係権利者の参加、当事者の責務、特定調停をしない場合、文書等の提出が並んでいる
出典:e-Gov法令検索「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」7条〜12条(令和7年10月1日施行版/2026年9月27日確認)

また、停止を命じたあとで必要があると認めるときは、裁判所は申立てにより執行手続の続行を命じることもできます(7条2項)。止まったままが保証されるわけではありません。

費用は相手方の数で決まる

東京簡易裁判所は、特定調停の申立てに必要な費用を次のように案内しています。

表2 東京簡易裁判所に個人が申し立てる場合の費用(2026年9月27日確認)
費目 金額 数え方
申立手数料(収入印紙) 500円 相手方1人(社)につき。相手方が5社なら2,500円
手続費用(予納郵便切手) 500円 相手方1人(社)につき。100円切手4枚と10円切手10枚
東京簡易裁判所の特定調停のページにある費用の説明。個人が申し立てる場合は相手方1人につき500円分の収入印紙が必要で、相手方が5社なら2500円になること、予納郵便切手も相手方1社につき500円分必要なことが書かれている
出典:東京簡易裁判所「特定調停」申立てに必要な費用(2026年9月27日確認)

この金額は個人が申し立てる場合のものです。東京簡易裁判所は、事業者・法人が申し立てる場合について「債務額元本が高額の場合が多く、算出方法が複雑になることがあります」と書いており、金額を示していません。法人で申し立てるときは、申立先の簡易裁判所に金額を確認してください。個人の場合でも、相手方1社に対する債務額の残元本額によっては追納が生じることがあるとされています。

申立てから終了までの流れ

申立先は、相手方(債権者)の住所、居所、営業所または事務所の所在地を受け持つ簡易裁判所です。債務者の住所地ではありません。複数の債権者を相手にする場合、いずれかの相手方の所在地を受け持つ簡易裁判所が、すべての事件を関連事件として扱うことがあります。

図2 東京簡易裁判所が案内している進み方

申立て

書類と費用を提出する

特定調停申立書(正本・副本の2部、相手方ごと)、財産の状況を示すべき明細書その他特定債務者であることを明らかにする資料、関係権利者一覧表、資格証明書。郵送での申立ても可能です。

受理通知

裁判所が債権者へ送る

申立書の副本と申立受理通知などが郵送され、金銭消費貸借契約書の写しや、取引履歴に基づく利息制限法所定の制限利率による引き直し計算書の提出が依頼されます。

事情聴取期日

申立人だけが出頭する

調停委員が、生活状況や収入、今後の返済方法などを聴き取ります。

調整期日

債権者を交えて詰める

相手方が出頭しないときは、調停委員が電話で調整します。総債務額を確定し、返済可能な弁済計画案を立てて双方の意見を聴きます。

終了

成立か、不成立か

合意に達すれば調停成立。相手方が出頭していないときは、合意した内容の特定調停に代わる決定がなされます。折り合いがつかなければ、合意ができないまま終了します。

東京簡易裁判所は、終了までに申立てからおおよそ2か月程度、申立人が裁判所に出向くのは2回程度と案内しています。調停は非公開の席で行われるため、外部に知られることもないとしています。

合意の中身に課される「公正かつ妥当で経済的合理性」

話し合いだから何を決めてもよい、という手続ではありません。17条2項は、調停委員会が定める調停条項について、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならないと定めています。

この物差しは、合意が成立しないときの判断にも使われます。18条は、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容の合意が成立する見込みがない場合、または成立した合意がその内容とは認められない場合に、調停委員会は特定調停が成立しないものとして事件を終了させることができるとしています。

図3 17条1項の「調停委員会が定める調停条項」を使うときの条件

条件1

当事者の共同の申立てがあること(17条1項)

条件2

申立ては書面で行い、その書面に調停条項に服する旨を記載すること(17条3項)

条件3

内容が公正かつ妥当で経済的合理性を有すること(17条2項)

取下げ

調停条項の告知前に限り、相手方の同意なしに申立てを取り下げられる(17条5項)

ほかの手続との位置関係

債務の整理には複数の道があります。特定調停がどこに位置するかを押さえておくと、選ぶときに迷いません。

表3 中小企業が使う債務整理の枠組みの違い
枠組み 場の性質 誰が間に立つか
特定調停 裁判所の手続だが話し合い 簡易裁判所の調停委員会(専門的知識経験を有する民事調停委員)
中小企業の事業再生等に関するガイドライン 裁判所を使わない私的整理 第三者支援専門家
中小企業活性化協議会 裁判所を使わない私的整理の支援 各都道府県の協議会
民事再生・破産 裁判所の法的整理 裁判所が選任する監督委員・破産管財人など

私的整理の枠組みについては、中小企業の事業再生等に関するガイドラインと中小企業活性化協議会を別にまとめています。保証人の問題が絡む場合は、経営者保証ガイドラインもあわせて確認してください。

よくある質問

特定調停を申し立てれば借金は減りますか

自動的には減りません。特定調停は返済方法の話し合いの場であり、調停委員会が定める調停条項には公正かつ妥当で経済的合理性が求められます(17条2項)。合意が成立しなければ、そのまま手続は終了します(18条)。

申立てをすれば差押えは止まりますか

止まるのは、裁判所が停止を命じた場合です。7条は「申立てにより」と定めており、別に停止の申立てが必要で、その理由を疎明しなければなりません。給料や賃金など給与に係る債権に基づく執行は、この規定では止められません。

どこの裁判所に申し立てますか

相手方(債権者)の住所、居所、営業所または事務所の所在地の区域を受け持つ簡易裁判所です。債務者側の所在地ではない点に注意してください。

債権者が裁判所に来なかったらどうなりますか

東京簡易裁判所は、相手方が出頭しないときは調停委員が電話で調整を行うとしています。合意に達した場合、相手方が出頭していないときは合意した内容の特定調停に代わる決定がなされます。

資料を出さないとどうなりますか

10条が当事者に債権・債務の発生原因と内容などを明らかにする責務を課しています。さらに24条は、正当な理由なく12条の文書・物件の提出要求に応じないときは10万円以下の過料に処すると定めています。

参照した一次情報

  • e-Gov法令検索「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(平成11年法律第158号)https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC1000000158(1条の目的、2条の特定債務者・特定調停の定義、7条の民事執行手続の停止と給与債権の例外、8条の民事調停委員、9条の関係権利者の参加、10条の当事者の責務、11条の特定調停をしない場合、12条の文書等の提出、17条の調停条項、18条の不成立、24条の10万円以下の過料。令和7年10月1日施行版/2026年9月27日確認)
  • 東京簡易裁判所「特定調停」https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/tokubetutyoutei/index.html(申立先、申立手数料500円と予納郵便切手500円、必要書類、事情聴取期日と調整期日、おおよそ2か月・出頭2回程度、非公開。2026年9月27日確認)
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