カードローンなどを利用したことがある経営者の方であれば「ビジネスローンに総量規制は適用されるのか?」非常に気になる点だと思います。今回は、ビジネスローンと総量規制の関係について解説します。
総量規制とは?
総量規制とは
を言います。
貸金業法の改正に伴い、2010年6月18日に総量規制が導入されました。
これは2010年当時、多重債務者が社会問題になっていました。多重債務者を減らすべく
と作られたのが「総量規制」という制度なのです。
このときの貸金業法の改正では
- 総量規制:借入残高が年収の3分の1以上だと新規の借入ができなくなる
- グレーゾーン金利の撤廃:上限金利が29.2%から15.0%~20.0%へ引き下げ
- 貸金業者への規制強化:貸金業者には貸金業務取扱主任者の設定を義務付け
と、3本柱で規制強化が行われ、そのうちの一つが「総量規制」だったのです。
ちなみにこの「総量規制」というのは「貸金業法」に定められた法律です。
貸金業というのは
- 消費者金融
- クレジットカード会社
- 信販会社
・・・
などが該当します。消費者金融、クレジットカード会社、信販会社などが対象になるのが「総量規制」なのです。
ここには銀行は含まれていません。
銀行は、貸金ではなく、銀行法という法律に則って運営されます。
そのため、消費者金融などは銀行を代理店(販売主体)にする形で総量規制対象外の銀行カードローンを提供していました。
しかし、この銀行カードローンも、金融庁が2017年9月から立ち入り検査に着手し、残高の多い銀行を中心に12行が検査され、最終的に業界の自主規制として、「総量規制」と同程度の「年収の3分の1」に抑えられるようになっています。
ビジネスローンに総量規制は適用されるのか?
いきなり結論ですが
なぜなら、総量規制の定義は、貸金業法の原文を抜粋すると・・・
(過剰貸付け等の禁止)
第十三条の二 貸金業者は、貸付けの契約を締結しようとする場合において、前条第一項の規定による調査により、当該貸付けの契約が個人過剰貸付契約その他顧客等の返済能力を超える貸付けの契約と認められるときは、当該貸付けの契約を締結してはならない。2 前項に規定する「個人過剰貸付契約」とは、個人顧客を相手方とする貸付けに係る契約(住宅資金貸付契約その他の内閣府令で定める契約(以下「住宅資金貸付契約等」という。)及び極度方式貸付けに係る契約を除く。)で、当該貸付けに係る契約を締結することにより、当該個人顧客に係る個人顧客合算額(住宅資金貸付契約等に係る貸付けの残高を除く。)が当該個人顧客に係る基準額(その年間の給与及びこれに類する定期的な収入の金額として内閣府令で定めるものを合算した額に三分の一を乗じて得た額をいう。次条第五項において同じ。)を超えることとなるもの(当該個人顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約として内閣府令で定めるものを除く。)をいう。
個人顧客を相手方とする貸付けに係る契約で
とあります。
ということです。
なぜなら、総量規制には「除外」と「例外」が用意されているからです。
総量規制の「除外」事項
- 不動産購入または不動産に改良のための貸付け(そのためのつなぎ融資を含む)
- 自動車購入時の自動車担保貸付け
- 高額療養費の貸付け
- 有価証券担保貸付け
- 不動産担保貸付け
- 売却予定不動産の売却代金により返済できる貸付け
- 手形(融通手形を除く)の割引
- 金融商品取引業者が行う500万円超の貸付け
- 貸金業者を債権者とする金銭貸借契約の媒介(施行規則第10条の21第1項各号)
総量規制の「例外」事項
- 顧客に一方的有利となる借換え
- 緊急の医療費の貸付け
- 社会通念上緊急に必要と認められる費用を支払うための資金の貸付け
- 配偶者と併せた年収の3分の1以下の貸付け
- 個人事業者に対する貸付け
- 預金取扱金融機関からの貸付けを受けるまでの「つなぎ資金」に係る貸付け(施行規則第10条の23第1項各号)
個人事業主・自営業は、事業を営んでいても、「法人」ではなく、「個人」に該当しますが・・・
総量規制の「例外」事項で
個人事業者に対する貸付け
が含まれているため、
個人事業主・自営業者向けのビジネスローンも総量規制の対象外なのです。
AGビジネスサポートのウェブサイトにも
ただし、個人事業主の方は、一定の要件を満たすことによって総量規制の例外として事業資金のお借入が可能です。(要慎重審査)
1)資金使途が事業資金であること。
2)確定申告書および当社所定の事業計画・収支計画・資金計画をご提出いただけること。
3)お借入金額が返済能力を超えない範囲であると認められること。また、法人名義でのお借入は、この総量規制の除外規定に該当するため、事業資金としてのお借入に影響を与えるものではありません。(要慎重審査)
と書かれています。
ビジネスローンにも貸金業法の義務がある!?
総量規制のイメージ図を見ると
左上に
法人向け貸付・保証
返済能力調査義務
(法第13条第1項)
というものがあります。
貸金業法
(返済能力の調査)
第十三条 貸金業者は、貸付けの契約を締結しようとする場合には、顧客等の収入又は収益その他の資力、信用、借入れの状況、返済計画その他の返済能力に関する事項を調査しなければならない。
「総量規制」とは違って、「返済能力の調査」では、「個人」「法人」という限定がありません。
ビジネスローンの場合も、カードローンなどと同じように
- 収入又は収益
- その他の資力
- 信用
- 借入れの状況
- 返済計画
- その他の返済能力に関する事項
を調査する義務があるのです。
だからこそ、ビジネスローンでは
- 本人確認書類
- 決算書(2期分、3期分)
- 確定申告書
- ビジネスローン会社のひな形の事業内容確認書
- 登記事項証明書
- 借入計画書
・・・
などの提出が必要になるのです。
総量規制対象外のビジネスローンのメリット
メリットその1.融資額は年収に左右されない
「総量規制」が適用されてしまうと、経営者の年収の3分の1までしか借りられないことになってしまいます。
事業資金の資金調達で、経営者の年収の3分の1では、到底資金繰り改善に役立ちません。
経営者の場合は、ある程度の支払いがすべて経費で落とせるので、経営者の給与は税金対策で抑えている方も少なくありません。わざと給与所得を減らしている経営者にとっては、総量規制が適用されてしまうカードローンの借入は厳しいのです。ビジネスローンであれば、このような事情を考慮して審査してくれるので、年収と借入額の割合だけで、一律に審査が落とされたりはしないメリットがあります。
メリットその2.総量規制めいいっぱいまでカードローンなどで借りてる方も、新規で資金調達ができる
総量規制というのは
どうやって年収の3分の1までに融資額を制限するかと言うと・・・
ステップその1.個人信用情報機関の情報をチェックする
新規のローン申込を受けた場合、貸金業者は指定信用情報機関が保有する個人信用情報を使用し、他の貸金業者からの借入残高を調査します。
ステップその2.収入証明を提出させる
自社の貸付残高が50万円を超える貸付けを行う場合、他の貸金業者を含めた総貸付額が100万円を超える貸付けを行う場合には、収入を明らかにする書類の提出を求めることになります。
確定申告書や源泉徴収票、納税証明書などです。
ステップその3.「既存貸付+新規貸付」が3分の1を超えていないかチェックする
既存の貸付がすでに年収の3分の1を超えていた場合
→ 融資不可
既存の貸付は年収の3分の1を超えていないが、新規貸付を希望額通りに行うと年収の3分の1を超えてしまう場合
→ 融資不可 or 3分の1ギリギリまで融資可能額を引き下げて貸付する
既存の貸付と、新規貸付を希望額通りに行っても、年収の3分の1を超えていない場合
→ 融資可
ということになります。
例えば、年収600万円の経営者の場合
すでにカードローンで200万円の借入があったとしたら、
他のカードローンに申し込んでも、確実に審査落ちになります。総量規制にひっかかるからです。
カードローンでの借り入れはできないのです。
しかし、この状況でビジネスローンを申込んでも、
ビジネスローンは「総量規制」の対象外ですので、経営する会社の状況によっては、借りられる可能性が出てきます。
のです。
本来は
- カードローン:プライベートな資金であれば資金使途自由
- ビジネスローン:事業資金であれば資金使途自由
と資金使途が区別されているものですが、中小企業の経営者にとっては、会社も、個人も、同じようなものですので、「カードローンでも、ビジネスローンでも、資金が調達できれば、資金繰りが改善できる」と考える経営者も多いのです。
このときに「総量規制対象外のビジネスローン」は重宝されます。
総量規制対象外のビジネスローンのデメリット
デメリットその1.総量規制の対象外と言っても、法人の収入・返済能力で審査はされる
ビジネスローン審査では「総量規制」は対象外なので関係ありませんが、「返済能力」はチェックされます。
前述した通りで
ビジネスローンでは「総量規制」が適用外ですので、借りられる金額は年収の3分の1までというような規制はありません。
しかし、だからと言って「返済能力」を審査しないわけではないので注意が必要です。
ビジネスローンで審査される「返済能力」
「返済能力」の審査で重要視されるのが「債務償還年数」です。
です。
- 有利子負債:借金のこと
- 営業利益 + 減価償却費:キャッシュフローのこと
ですから、
借金が1,000万円で減価償却費300万円、営業利益が200万円の場合
債務償還年数 = 有利子負債:1,000万円 / ( 営業利益:200万円 + 減価償却費:300万円 ) = 2年
となります。
ビジネスローン会社は
と判断するのです。
「債務償還年数」の目安としては
- 優良:3年以内
- 良好:5年以内
- 普通:10年以内
- 注意:10年超
- 危険:20年超
となっています。
ビジネスローンでは、最長借入期間が3年~5年というものが多いので
「債務償還年数」の目安としても
3年以内~5年以内
でないと、ビジネスローン審査に通らないのです。
「債務償還年数」:3年以内というのは
と言っているのです。
デメリットその2.個人事業主の場合は、総量規制の範囲内でしか審査に通らない可能性が高い
法人であれば
- 経営者の給与所得:600万円
- 法人の経常利益:1億円
というケースもあります。
これであれば、経営者個人がカードローンで総量規制めいいっぱいの200万円を借りていたとしても、法人の方の収益性が高く、確実な返済が見込めるので、ビジネスローン審査には通る可能性が出てきます。
しかし、個人事業主の場合
となります。
結局、個人と同じことですから、総量規制のルール上は「個人事業主への貸付は総量規制の対象外」となっていても、実務上は、総量規制のラインぐらいで審査を落とさないと返済に行き詰まる可能性が高いと考えられてしまうのです。
当然、個人事業主向けのビジネスローンであっても、総量規制と同じぐらいの基準(年収の3分の1)で審査に落とされる可能性が高いのです。
総量規制対象外の事業者ローンランキングはこちら
まとめ
総量規制とは
- 個人がお金を借りる際に借入の合計額が年収等の3分の1までに制限される規制のこと
を言います。
法人がビジネスローンを利用する場合に「総量規制」は適用されません。
なぜなら、総量規制自体が「個人」向けの規制だからです。
個人事業主・自営業者がビジネスローンを利用する場合に「総量規制」は適用されません。
なぜなら、総量規制の「除外事項」に「個人事業主への貸付」という項目があるからです。
ビジネスローンは「総量規制」の対象外ですので
- 年収によって融資額が制限されない
- 総量規制で個人向けのローンが借りられない方でも、新規でビジネスローンを借りられる可能性がある
というメリットがある反面
- 「返済能力」の審査は必要になる
- 個人事業主・自営業は総量規制と同じ程度の基準で審査されてしまう
というデメリットもあるのです。
「ビジネスローンと総量規制は関係あるの?」
「ビジネスローンで借りられる金額に制限はあるの?」