ビジネスローンを借りると、その残高は貸借対照表の負債の部に載ります。このとき「短期借入金」と「長期借入金」のどちらに入れるかは、好みや慣習で決めるものではありません。会社計算規則が、1年内に返済されると認められるものを流動負債、それ以外を固定負債と定めています。そしてこの区分は、次に融資を申し込むときに金融機関が見る指標を直接動かします。ここでは条文の該当箇所を引きながら、決算書での見え方と実務上の注意点を整理します。仕訳そのものの書き方はビジネスローンの仕訳と勘定科目にまとめています。
この記事の要点
- 会社計算規則 第75条は、負債の部を流動負債と固定負債に区分することを求めています。
- 流動負債に入るのは「その他の負債であって、一年内に支払われ、又は返済されると認められるもの」。固定負債には長期借入金が挙げられています。
- 5年返済の借入でも、翌期に返す1年分は毎期そのまま流動負債に立ちます。これが「1年内返済予定の長期借入金」です。
- 区分をまとめて全額を短期借入金にすると、流動比率が実態より大幅に低く見えます。
- 金融商品取引法にもとづく開示では、財務諸表等規則が流動負債は短期借入金、固定負債は長期借入金という科目名まで指定しています。
- 借入金は元本と利息を分けるのが前提です。元本は負債の減少、利息は費用になります。
区分の根拠は条文にある
まず、どの法令が何を決めているかを整理します。中小企業が作る計算書類の根拠は会社計算規則です。
会社計算規則 第七十五条(負債の部の区分)
負債の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、各項目は、適当な項目に細分しなければならない。 一 流動負債 二 固定負債
2 次の各号に掲げる負債は、当該各号に定めるものに属するものとする。
一 次に掲げる負債 流動負債 …… ヌ その他の負債であって、一年内に支払われ、又は返済されると認められるもの
二 次に掲げる負債 固定負債 イ 社債 ロ 長期借入金 ……

ここで押さえたいのは、条文が「借りた期間」ではなく「いつ返すか」で区切っていることです。5年契約の借入だから全部固定負債、ではありません。1年内に返済されると認められる部分は流動負債に属します。
上場企業などが金融商品取引法にもとづいて開示する財務諸表では、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則がさらに細かく定めています。第四十七条は「その他の負債で一年内に支払又は返済されると認められるもの」を流動負債とし、第四十九条は流動負債の区分表示として「三 短期借入金(金融手形及び当座借越を含む。)」を掲げます。第五十一条は「社債、長期借入金、関係会社からの長期借入金……で流動負債に属しないもの」を固定負債とし、第五十二条は固定負債の区分表示として「二 長期借入金(金融手形を含む。)」を掲げています。
| 区分 | 会社計算規則 | 財務諸表等規則 | 貸借対照表での科目 |
|---|---|---|---|
| 流動負債 | 第75条第2項第1号ヌ「一年内に支払われ、又は返済されると認められるもの」 | 第47条第6号「一年内に支払又は返済されると認められるもの」 | 短期借入金/1年内返済予定の長期借入金 |
| 固定負債 | 第75条第2項第2号ロ「長期借入金」 | 第51条「長期借入金……で流動負債に属しないもの」 | 長期借入金 |
| 科目名の指定 | 「適当な項目に細分」 | 第49条第3号「短期借入金」/第52条第2号「長期借入金」 | — |
財務諸表等規則は中小企業の決算書に直接適用されるものではありません。金融商品取引法にもとづく開示のための規則です。ただし科目の切り方は実務の下地になっており、区分の考え方は会社計算規則と同じ1年基準です。中小企業が自社の決算書を整えるときも、この並びを目安にできます。
「1年内返済予定の長期借入金」はなぜ毎期出てくるのか
5年で返す借入を例にすると、決算日ごとに残高が2つに割れます。翌期に返す1年分は流動負債、それより先に返す分は固定負債です。

実務では、期末に長期借入金のうち翌期返済分を「1年内返済予定の長期借入金」へ振り替えます。翌期首に戻して、また期末に振り替えるという処理をする会社もあります。どちらの手順でも、決算書に載る姿は同じです。大事なのは期末時点で正しく分かれていることです。
据置期間がある借入では注意が必要です。据置期間中は元本の返済がないため、翌期に元本の返済が始まらないなら流動負債に立つ元本はありません。据置が明けるタイミングをまたぐ期は、金額の出し方を返済予定表で確かめてください。据置期間の考え方はマル経融資のような制度融資でもよく出てきます。
まとめて計上すると、決算書の見え方が変わる
ここが実務上いちばん効くところです。区分をまとめて全額を短期借入金にすると、短期の支払能力を示す流動比率が大きく下がります。

流動比率は、流動資産を流動負債で割った比率です。金融機関が決算書を読むときの基本項目のひとつで、短期的に資金が回るかを見ています。区分をまとめると、まだ返す必要のない先の元本まで「1年以内に返すもの」として数えられ、実態より資金繰りが苦しい会社に見えます。
逆方向の誤りもあります。1年内に返す分を固定負債に残したままにすると、流動比率が実態より良く見えます。こちらは決算書の信頼性そのものが疑われる話になるため、指摘されたときの影響が大きくなります。次の借入に向けた準備という意味でも、区分は正確に保つのが結局いちばん早い道です。
区分以外に決算書で見られるところ
借入残高が月商の何か月分にあたるかは、返済余力を見るときの目安として使われます。売上規模に対して残高が大きいと、追加の借入は通りにくくなります。
利益に減価償却費を足した金額が、年間の返済額をまかなえているか。ここが赤字だと、借り換えの相談から始まります。
役員からの借入は、金融機関から資本に近いものとして見られることがあります。第三者からの借入と同じ欄にまとめず、分けて把握しておきます。
本数が増えると、返済予定表を1本ずつ確認しないと翌期返済分が出せません。決算のたびに全部そろえる手間を考えて、本数を絞る判断もあります。
借入残高そのものの管理は、資金繰り表と対で考えるものです。必要額の出し方は運転資金とはで、保証付き融資のしくみは信用保証協会とはで整理しています。
期末にやること
借入1本ごとに、翌期に返済する元本の合計額を出します。利息は含めません。
長期借入金のうち翌期返済分を「1年内返済予定の長期借入金」へ振り替えます。
金融機関の残高証明書と帳簿の残高が一致しているかを確認します。ずれていれば元本と利息の按分を疑います。
区分後の数字で計算し、前期と比べます。急に落ちていれば、区分の誤りか、実際に短期の借入が増えたかのどちらかです。
よくある質問
短期借入金と長期借入金の分かれ目は何ですか
返済期限が1年内に到来するかどうかです。会社計算規則 第75条第2項第1号ヌは、流動負債に属するものとして「その他の負債であって、一年内に支払われ、又は返済されると認められるもの」を挙げ、同項第2号ロで固定負債に「長期借入金」を挙げています。契約期間の長さそのものではなく、決算日から見ていつ返すかで判断します。
5年返済の借入は全額が長期借入金ですか
違います。決算日の翌日から1年内に返済する元本は流動負債に属します。実務では「1年内返済予定の長期借入金」という科目で流動負債に表示します。残りが長期借入金として固定負債に残ります。
1年内返済予定の長期借入金を分けないとどうなりますか
決算書の区分が条文の求める形になりません。実務上の影響としては、流動比率などの指標が実態からずれます。金融機関は短期の支払能力を見るためにこれらの指標を使うため、次の融資の判断に影響し得ます。
ビジネスローンとノンバンクからの借入で扱いは変わりますか
変わりません。借入先が銀行でも信用金庫でも日本政策金融公庫でもノンバンクでも、会計上はいずれも借入金です。区分は返済期限で決まります。
利息はどこに載りますか
元本の返済は負債の減少、利息は費用です。損益計算書の営業外費用に支払利息として計上します。返済額をまとめて負債の減少として処理すると、利息が費用に載らず、利益が実態より大きく出ます。仕訳の書き方はビジネスローンの仕訳と勘定科目で扱っています。
個人事業主でも同じ区分が必要ですか
会社計算規則は株式会社などの計算書類についての規則で、個人事業の青色申告決算書に直接適用されるものではありません。ただし貸借対照表を作る場合、借入金の性質を短期と長期で把握しておくと、資金繰りの見通しが立てやすくなります。
据置期間中はどう扱いますか
翌期に元本の返済が発生しないのであれば、流動負債に立つ元本はありません。据置が明ける時期をまたぐ期は、返済予定表で翌期に返す元本の額を確認して分けてください。
参照した法令
- e-Gov法令検索「会社計算規則」(平成十八年法務省令第十三号)第七十五条
- e-Gov法令検索「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」第四十七条・第四十九条・第五十一条・第五十二条
この記事は条文の該当箇所を示すものです。個別の会計処理は、顧問税理士や会計事務所に確認してください。図の中の金額は説明のための例です。

















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